チャプター 19

彼の指が私の顎に食い込み、化粧室の壁へと押しつけられる。背中に当たる高級な大理石は、ぞっとするほど冷たかった。ヘンリーの灰色の瞳には、見慣れた怒りと軽蔑が燃えていた。けれど、私はもう怖くなかった。

「君に彼女の名を口にする資格はない」

その声は、私が嫌というほど知っている、あの危険な囁きへと低く沈んだ。

「君がするべきことはただ一つ、立派なハーディング夫人を演じることだ」

その瞬間、私の中で何かがぷつりと切れた。五年間、従い続けたこと。愛されようと必死でもがいたこと。彼がイザベラ・スコットを崇めるように見つめる姿を、ただ見続けてきたこと。そのすべてが、一瞬のうちに研ぎ澄まされた透明な確...

ログインして続きを読む